この町につくとすぐ、一軒ずつ宿をまわって、一番安くて居心地のよいところに投宿しました。
古ぼけたダブルベッドの上には、洗いざらしのシーツと、洗ったのか、使いかけなのかよくわからない、両端のほつれたタオルが無造作に置かれていました。冷房をつけたあと、魔法瓶のお湯をのみました。壁が薄く、あたりの雑踏がもれ伝わってくるような、そんな部屋でした。
夜が迫っていました。
私はショッピングセンターで遊んだあと、通りに面した鶏飯屋のテラスで、遅い夕食をとりました。今夜限りでマレーシアが終わる。明日朝シンガポールに戻らなくてはならない。そう思うと、食べ散らかされたテーブルを手早く片付けてゆくお姉ちゃんはもちろん、道に転がっている石ころにまで、愛着がわいてくるのです。
翌日夜明け前、散歩に出ました。
バスターミナルから、西に向かって、緩やかな坂が延びています。並木に植わっているシュロの木に掛けられたイルミネーションはまだ灯されたままでした。私はそれを伝う様に歩いていきました。少し歩くと、洋館があり、周りには国旗がゆらめいています。
黎明の色をフィルムに焼き付けようとファインダーを覗いて、何回かシャッターを切っている時、突然この建物や、木々を照らしていた光が消えました。振り返ると、もうそこには朝の陽が顔を出そうとしているのでした。
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