「このバスは何時にでるの?」
通路をはさんだ前の席に座っていた男が聞きます。
「0時だけど。遅れているんじゃない?貴方このバスに乗るの初めて?」
「ああ。飛行機で向かうつもりだったけど、席がとれなかったんだ。それで、バスにしたのさ。」
彼は、通路をはさんだ私の隣に移しました。
「どこからきたの?」
「シドニーだよ。」
彼の浅黒い肌、黒目がちの大きな瞳、鼻梁の高さを見て、インド人だと思っていた私は。軽く肩透かしをくらったように感じました。
「オーストラリア人ですか?」
「僕はマレーシア人だよ。仕事であちらに行っていたんだ。」
彼は自分がインド系マレー人だと言いました。
「両親は昔インドにいたんだ。僕の母親は幼いときすごく貧しかったんだ。今、二人は離婚し、下の弟は大学生で、母と二人でクアラルンプールに住んでいる。上の弟はアメリカでコンピュータグラフィックの仕事をしているんだよ。」
「あなたは何をしているの?」
「外科医さ。」そう答えると、 彼は「ねえ、君はいくつなの?」と聞きます。
バスは失速し、料金所のような施設でとまりました。
「降りよう。出国だよ。」
彼は自分の大きなスーツケースと私の小さなバックパックを持つと先に歩き出しました。手続きの列に並んでいる時、深緑のパスポートを見せてくれました。出生の欄には、私の生まれ年より二年前の数字が打刻されていました。
「僕のは見せてあげたのに、君がいつまでも教えてくれないなんて、そんなのアンフェアだよ。」
私は観念して、自分の実年齢をおしえました。
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