クアラルンプール



再び私たちを乗せたバスが、マレーシアに入ると、雨足はさらに強くなり、道の両側に延々とおい茂る椰子林が黒い影になって強風に翻弄されていました。突然、空の遠くで閃光が走りました。マレーシアの赤裸々な一面は、疲れた気持ちを高揚させるのでした。

話は少しづつ深くなっていきます。
「君は結婚していないの?」
「はい。」
「僕もしていないんだ。学生の頃から付き合っていた彼女がいたんだよ。八年間、僕達はいつも一緒だった。だけど、僕達は別れた。そしてすぐに、彼女はムスリムの男と結婚してしまったんだ。彼女はムスリム、僕はヒンドゥー教なのさ。」

「二人が同じ宗教ならば、八年も待たずに結婚していたにちがいない…」
そう考えながら、私はしばらく黙っていました。雨粒はだんだん小さくなってきました。
バスは、休憩所に入り、みんなは二十分間開放されました。二人はフードコートで暑いコーヒー牛乳を頼みました。彼はサンドウィッチと、月餅を買うと、私のバックに入れてくれました。

バスが湿った車体をようやくクアラルンプールの中心部に入っていったのは、青が薄くなりかける頃でした。
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