チャンギ国際空港に到着したのは深夜1時を過ぎたころでした。私は始発が出るまでの時間を、到着地点ですごしました。幸い、空港は24時間営業なのでした。5時半を過ぎると、始発電車が駅に滑り込んできました。私はそれに乗り込むと、車両は都心へと動き始めました。
車内で路線図をぼんやり眺めていると、痩せた色白の男子が声をかけてきました。
「日本人ですか?」
「はい。」
「僕もです。外国旅行中は、日本人とあんまり話したくないんですけど、暇だから、何か話しませんか?」
だったらシンガポール人に話しかければよいのに。と、心の中で呟きながら、いつもの優柔不断さで、結局話をしてしまいました。大学院生である彼は、学校という狭い世界の中での自慢ばかりを私に話すと、さっさと電車を降りていきました。
駅に着いて、私は目当ての宿を目指して歩き始めました。早朝なのに、荷物を背負って歩き出すと、うっすらと汗がにじんできます。 かすかに覚えのある芳香に立ち止まりました。あたりを見ると、可愛らしいジャスミンがそよ風に揺れていました。この白い花でいっぱいだったシシリアの海の色が一瞬脳裏をかすめました。
すこし元気になって、宿への道を急ぎました。
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