オールド ノート  
   
ノートの街で、沖縄人に出会いました。話してみると、二人ともゴシック建築のこの街は一回りしたところで、遺跡を見に行きたいと思っていたところでした。遺跡への交通手段はタクシー以外ありません。画学生の彼女はスケッチブックを持っていました。行商人の私はマジックペンを持っていました。そこで、遺跡までヒッチハイクをすることにしました。

オールド・ノートと書いたボードを掲げて十数分たったとき、一台の赤い車が止まりました。中には赤ちゃんを乗せた若夫婦がいます。「遺跡には何もないんだよ。だからバスも出ないんだ。」若い夫は教えてくれました。車はゆるい山道をのぼり、目的地までは十キロ以上あるように感じます。私たちは、もし車に乗せてもらえなかったら、歩いていこう。と考えていたのが無謀だったことに気づきました。

若夫婦は、帰り道、車を拾えなさそうな私たちを思いやって、「この遺跡は広いから、一緒に車で廻って、帰りは送ってあげるよ。」と提案してくれました。五人は廃墟になった城を見てから、古い教会の中に入りました。裏に回ってみると、はるか遠くにノートの海面がキラキラして見えます。

沖縄人はいいました。「宮殿をみてみたいんですけど、いいかしら?」「宮殿はなにもないよ。瓦礫なんだ。」夫が答えながら車を進めました。着いてみると、本当に、宮殿の土台だけが、かつての場所に残り、立派だったはずの建物は形を残していません。咲き終わり、茶色く枯れたサルビアの花がこの風景になじんでいました。

二人の子供、サミュエルの水色の瞳は、ノートの明るい空の色なのでした。
     
     
オールド ノート
戻る
home
進む