ドゥース
「一緒に行くのは、純白の大きな駱駝だよ。」
ガイドさんは言いました。
出発の準備が出来たと呼ばれて、休んでいた部屋から外に出てみると、いつのまにか、駱駝が大きな荷物をのせて座っていました。ナーブルで買ったぬいぐるみに瓜二つの白い一瘤駱駝です。あの店でこの色を選んだことを、今では不思議に思えます。

私たちは歩き出しました。町はすぐ終わり、土漠がはじまりました。

駱駝のアレックスは、道すがらおいしそうな草があると抜き取ってははんでいきます。土漠はどこまでも続いて、いつまでたっても、白い丘陵のある砂漠は見えてこない感じでした。それでも、見渡す限り抜けるような空と土だけの空間を行くのは心地よいものです。
体は汗ばんできて、私は上着を脱ぎました。上気した肌をさましていると、今まで普通の道を歩くかのように平静にしているガイドさんが聞きます。
「つかれた?」
「つかれない。気持ちいい。」
「幸せかい?」
「はい。とっても。」
「それなら僕も幸せだよ。アレックスも幸せだ。」
見上げると、アレックスはのどかな顔をしています。彼の体毛が日に反射して輝いています。
地図
ドゥースドゥース
ガイドさんは、私にアルジェリアとリビアの方向を教えてくれました。
そして、ベドウィンの歌をうたいだしました。足が軽くなりました。

二時間ほど歩くと、目的地につきました。ここの潅木のまわりが、今夜のお宿です。
ガイドさんは木を焼いて炭にすると、パンを焼き始めました。私たちが、ミントティーとパンとチーズの、アレックスが食物 の種の夕食をとる頃、あたりは暮れはじめました。

私は厚手の毛布にくるまり横になりました。しばらくすると、 雲は切れ、小さな星が見えてきました。一切が闇に包まれてしまうと、このこんもりした砂の山が、大海原の孤島であるような、そんな気持ちになるのです。星が流れます。願い事をしなくちゃ。でも、何も思い浮かびません。今、このどっしりとした砂の上に、こうして寝そべっていることだけが幸せで、これ以上の望みはうまれそうにありません。空の端に新月が浮かんで、私はガイドさんからそのイタリア語読みを教えて貰いました。
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