オールドマトマタでバスを降りると、客引きのお兄ちゃんたちが、そのバスの唯一の観光客だった私めがけてやってきました。私は彼らと相談して、一番小さなホテルに泊まることにしました。ホテルは、地面に大きな穴を掘って、さらにその壁を横に掘ったところが客室になっています。
チェックインするとき、その中の一人が言いました。
「ほかの奴らがいくら案内するといっても、聞いちゃだめだよ。盗人だから。」
しかし、宿に荷物をおいて、外に出ると、怪しいと言われた二人が、町を案内してあげるよ、といいます。断ってもついてくるので、結局三人でまわりました。
街はとても静かでした。変わりやすい天気を映すように、山肌は刻々と色を変え、風は、山々に囲まれたこの町の面を撫でていきます。歩いていくと、山羊と羊と驢馬がいたるところにいるのでした。山羊は山羊らしく、驢馬は驢馬らしい顔をしています。私が駱駝をものめずらしげに眺めていると、そばに立っていたお兄ちゃんがいいました。「ここに駱駝は二十五頭しかいないんだよ。ドゥーズに行ったら、もっとたくさんいるよ。」
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彼らのよく行く茶店は二軒あり、どちらに行ってもマトマタ紳士たちが、男社会の親密を図っていました。女の人は一人もいません。私は外国人ということで、ここにいることを許されているようでした。男たちは陽気で、どんなちっちゃな事でも冗談にしようとします。
彼らは、私が風砂避けに買った黒のベールを、手際よく頭に巻いてくれると、私を「ベルベル系日本人!」と呼びました。よく話してみると、昨日警告したお兄ちゃんと、案内してくれた男の子は、実は親戚同士なのでした。私をからかっていたのです。
雨がよく降った日でした。夜ホテルに戻り、暖かい部屋のなかでじっとしているのにも飽きて、部屋から外へ出てみると、雲は過ぎ去った後で、四角く切り取られた空一面に、大小の星々がうるんだ瞬きを見せているのです。漆黒はより深く、幾千万もの星が、手の届くほど近くにありました。
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