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湖坑の町につくと、お兄ちゃんは一軒の旅館の前で停まって、おばさんに値段の交渉をしてくれました。
「荷物を部屋まで運ぼうか?」
そう彼が言ったとき、
「私がやるわ。」
宿のお姉さんがにこやかに言いました。
私は彼女と部屋に荷物を運んで、階下におりていくと、彼の姿がありません。入り口のバイクも見えません。
「彼は?」
「家に帰ったわよ。」
おばさんは答えました。
その時になって、私は彼の名前すら聞いていなかった事に、初めて気づきました。
日が落ちてから、あたりを散歩しました。町はとても小さくて、すぐに灯りも何もないところにきてしまいます。町はずれのバイク屋の犬が、覚えのない臭いに吠え始めました。
見上げると、空の高いところに、満点の星が静かに瞬いているのでした。
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