シシリア 遠い古代から、そして 今、この瞬間まで
2000-2011
/アグリジェントに着いた日
そのとき、迷子の私はくたくたでした。立ち止まり左に目を遣ると、碧い海が教会の十字架と一緒に、静かに微笑んでいるのでした。
サンレオーネビーチへ
照りつける太陽のもとで、私は地中海にプカプカと浮いていました。薄っぺらなシャツは海草のようによれて、身体の周りでひらひらしています。そんな至福の気持ちで、砂の上に寝そべっていると、一人の男の子が声をかけてきました。
数分後、私は彼と、再び海の中でした。彼は慣れない私のために、ゴーグルを貸してくれました。浜にあがった後は素敵な場所に連れていってくれたり、ダンスを教えてくれたりしました。
海の家に寄ると、私達はアイスクリームを注文しました。ベンチで二人は語り合います。彼は太陽を背にして座り、逆光がそのブロンズの髪と小麦色の肌に描かれた、赤と金のタトゥーを眩しくさせていました。時が過ぎるのはとてもはやくて、別 れの接吻を終えると、私は一人、帰路につきました。まだほんの八つだった彼は、大人になった時、今日のこのことを思い出すのでしょうか。
アグリジェント イタリア共和国のシチリア島南部にある都市。古代ギリシアの植民都市アクラガスに起源を持ち、当時の遺跡が現在も残る。
ローマへ
駅のホームで、ローマ行きの夜行列車を待っていると、私の傍にバングラディシュのおじさんがいて、彼もまた、同じ行き先なのでした。
列車がホームに入ってくると、私とおじさんは6人がけのコンパートメントに落ち着きました。そこには、ふたりだけでした。私達は、お互いの話をし始めました。
そんなとき、突然部屋の扉が開くと、背の高い西洋人が顔を出しました。彼は、私たちの姿を一瞥しただけで、すぐにいってしまいました。そして私たちは、彼の瞳に一瞬、蔑視の色が浮かんだのを、見てしまいました。 少しの沈黙の後おじさんは言いました。 君は安全だよ。 ここには誰もこないからね。
翌朝おじさんにゆすり起こされると、終点はすぐそこでした。まわりの風景は既にローマのもので、それがかえって、シシリアの熱を思い出させるのでした。